王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-

「そうそう。王太子殿下は雲の上の存在過ぎるけど、黒龍の団長は頑張れば手が届きそうって思うみたいよ」

「……そうなの」

 ペペロネの先輩侍女の仲間がアルフレッドに思いを寄せているが、彼には既に恋人がいることを教えられずにいると話す。

 アルフレッドに恋人──婚約者ができたことは、まだ周知されていないのだ。

 舞踏会の一件には目撃者がいたけれど、アルフレッドのひと睨みで命の危機を覚ったのか、まったく噂に上ることがなかったのだ。

 それどころか、シルディーヌは王太子殿下と二曲もダンスをしたために、殿下との仲のほうが疑われたのだった。しかしその後の接触がないために、大きな噂になることもなく終わっている。

 まあシルディーヌのように平凡な顔で貧相なスタイルでは、王太子殿下が見初めるはずもないというのが本当のところだろうけれど。

「団長は怖いけれど、怖い分だけ、愛されたときのギャップに期待してしまうって、聞いたわ。自分にだけは、蕩けるような甘い顔を見せてくれるんじゃないかって言うの。でも、そうよね。恋人にだけは特別な扱いをしてくれそうって、私も思ってしまうわ」

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