王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
ナダール王国守護の要、黒龍騎士団の拠点である南宮殿──通称黒龍殿。
屋根に紺碧に黒龍印の団旗がはためく美しい宮殿は、過去の戦があった時代、気が立った騎士たちに侍女が惨殺される事件が頻発した。
そのため、使用人の立ち入りは禁止となっている。
荒くれ者の団員が所属し、鬼神の異名をとる騎士団長のいるここは、王宮内では『危険な場所』だと認知されており、現在も使用人たちはいっさい近づかない。
そんな黒龍殿の中をせっせとモップ掛けをするのは、田舎の子爵令嬢シルディーヌ。
ピンクブロンドの髪を一つに束ね、お仕着せの服を身に着けた彼女は、黒龍殿への出入りを許されたただ一人の使用人である。
婿探しのために侍女として王宮にきた当初、間違えて南宮殿に入ったのが運の尽き。騎士団長のアルフレッドに丸め込まれて、黒龍殿の配属にされたのだ。
むさくるしい男性ばかりいる宮殿内をたったひとりで清掃する羽目になり、文句を言いながらも日々真面目に頑張っている。
幼馴染の黒龍騎士団長のアルフレッドとは恋人同士。なにがどう間違ってこうなったのか、シルディーヌは未だによく分かっていない。