王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-

「あら、キャンディは舞踏会で知り合った人がいるじゃない」

 シルディーヌが口を挟むと、キャンディは首を横に振った。

「彼にはほかにも恋人候補がいるって知って、即行で振ったわ。ああ、私の運命のお相手はどこにいるのかしら……。早く、恋がしたいわ」

 神に祈るように手を組んだキャンディが天を仰ぎ見る。

 シルディーヌもペペロネも、キャンディの真似をして天を見た。それぞれの願いは違うけれど、目指すところは一緒だ。

 ──しあわせな結婚。

 アルフレッドに会えるのは五日後。早く時が経つことを願うシルディーヌだった。


**


 南宮殿は王宮の入口近くにあり、奥まった場所に建つ侍女寮からの道のりは、ちょっとした散歩よりも長い。

 往復時にはほかの使用人に会うこともなく、たまに見かける庭師とあいさつを交わす程度だ。

 だから、今までは、知らない侍女に声をかけられることはなかったのだが……。

「ちょっと、そこのあなた。黒龍殿に出入りしている侍女って、あなたのことかしら?」

< 20 / 111 >

この作品をシェア

pagetop