王宮侍女シルディーヌの受難2ー短篇-
「あら、キャンディは舞踏会で知り合った人がいるじゃない」
シルディーヌが口を挟むと、キャンディは首を横に振った。
「彼にはほかにも恋人候補がいるって知って、即行で振ったわ。ああ、私の運命のお相手はどこにいるのかしら……。早く、恋がしたいわ」
神に祈るように手を組んだキャンディが天を仰ぎ見る。
シルディーヌもペペロネも、キャンディの真似をして天を見た。それぞれの願いは違うけれど、目指すところは一緒だ。
──しあわせな結婚。
アルフレッドに会えるのは五日後。早く時が経つことを願うシルディーヌだった。
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南宮殿は王宮の入口近くにあり、奥まった場所に建つ侍女寮からの道のりは、ちょっとした散歩よりも長い。
往復時にはほかの使用人に会うこともなく、たまに見かける庭師とあいさつを交わす程度だ。
だから、今までは、知らない侍女に声をかけられることはなかったのだが……。
「ちょっと、そこのあなた。黒龍殿に出入りしている侍女って、あなたのことかしら?」