可愛すぎてつらい
11.憧れ
門の手前でチェルシーは馬車から降りた。見張りの騎士にこちらを訪れているフレッドの忘れものを届けに来た旨を伝えると、連絡を受けて中から騎士服をきた青年が出てきた。
「フレッド隊長の奥様ですね。ご案内します」
再度用件を伝えると、にこやかに応接室のような部屋へと案内してくれた。
「取次ぎを申し出てきますので、暫くお待ちください」
と、青年が部屋を出てから、ホッと息を吐く。
「門の外からなら見たことがあったけれど、中には初めて入ったわ」
「ここは私もです。いつも入り口でお届け物を渡すだけだったので」
無事に案内してもらい、次第に緊張もほぐれてきた。出された紅茶もとても美味しい。そして漸く人心地ついて、キョロキョロと部屋を見渡した。
壁一面の大きなガラス棚には騎士服や鎧、色んな盾やトロフィーが飾ってあり、華美な装飾はないがシンプルで質の良い家具で揃えられている。なんとも男性が多い騎士団らしい。
屋敷にも同じようなトロフィーが飾ってあり、フレッドが騎士であったことは事実なのだと思った。貴族然とした彼しか知らないから意外だが、背も高くスタイルの良いフレッドだ。さぞかし騎士服が似合ったことだろう。屋敷に当時の絵姿があるから探してみるのもいいかもしれない。そう思えるくらいにはフレッドに興味を持ち始めたチェルシー。
「それにしてもやっぱり騎士様の制服は素敵だわ。小さい頃お祭りで騎士団の模擬戦を見てから憧れだったの!」
「女子の憧れですよねー」
「模擬戦のときは正装をするでしょう?それがまた子供心に格好良かったのよね」
「騎士様には舞台俳優にするような、熱狂的なファンもいるんですよ」
「まぁ」
マリーの言葉にチェルシーは驚いた。憧れのような想いはあったが、そんなふうにミーハーの対象として見たことがなかった。
「旦那様も騎士団に在籍されていたころは、ファンクラブがあったとか」
チクリ。なぜかその言葉に胸が針先で突かれたような痛みを覚えた。
その意味が分からず、チェルシーは胸に手を当てて首を傾げた。痛みはもうない。
「そんな人が私の夫なんて、とてもラッキーだわ」
笑って言ってみたつもりだが、少しだけ引き攣ってしまった。幸いマリーは気付かなかったようだ。
それから飾られている騎士服の素晴らしさを二人で語りだす。トラウザーズのブーツインがいいというマリーと、ジャケット背面のスリットが素敵というチェルシーの、互いの嗜好に深く共感しながら話に花を咲かせる。マリーとはやっぱりもっと仲良くなれそうだ。
紅茶を半分以上飲んだところでノックされて返事を返せば、開いた扉に見た顔がいた。
「やぁ、チェルシー殿。お久しぶり」
「まぁ!キース様!ご無沙汰しております」
太陽のような笑顔で話すのは、フレッドと同期だったキースという騎士だ。結婚式に招待したし、屋敷に遊びにきたこともある。フレッドの唯一の友だとキース自身は言っていた。フレッドは無言だったが、それは肯定なのだろう。
明るい彼と無口なフレッドは光と影のようで、目に見えない信頼関係に羨ましくなったこともある。
それにしても何故彼が?知り合いに会えて安心はしたけれど。しかし常に笑顔を絶やさないイメージのキースだが、今日はいつもに増してご機嫌に見えた。
「じゃあ、本だっけ?渡しに行こうか。案内するよ」
「そんな……中まで入ってはご迷惑になるのでは?」
完全に応接室にフレッドが来るものだと思っていたチェルシーは、まさかのキースの言葉に驚きを隠せない。
「さっきフレッドに会ったからさ。奴は団長室にいるよ。了承を貰ったから忘れ物を一緒に渡しに行こう」
フレッドに会った方が絶対面白いから、というキースの言葉に首を傾げつつも彼についてマリーと二人、部屋を出た。
「フレッド隊長の奥様ですね。ご案内します」
再度用件を伝えると、にこやかに応接室のような部屋へと案内してくれた。
「取次ぎを申し出てきますので、暫くお待ちください」
と、青年が部屋を出てから、ホッと息を吐く。
「門の外からなら見たことがあったけれど、中には初めて入ったわ」
「ここは私もです。いつも入り口でお届け物を渡すだけだったので」
無事に案内してもらい、次第に緊張もほぐれてきた。出された紅茶もとても美味しい。そして漸く人心地ついて、キョロキョロと部屋を見渡した。
壁一面の大きなガラス棚には騎士服や鎧、色んな盾やトロフィーが飾ってあり、華美な装飾はないがシンプルで質の良い家具で揃えられている。なんとも男性が多い騎士団らしい。
屋敷にも同じようなトロフィーが飾ってあり、フレッドが騎士であったことは事実なのだと思った。貴族然とした彼しか知らないから意外だが、背も高くスタイルの良いフレッドだ。さぞかし騎士服が似合ったことだろう。屋敷に当時の絵姿があるから探してみるのもいいかもしれない。そう思えるくらいにはフレッドに興味を持ち始めたチェルシー。
「それにしてもやっぱり騎士様の制服は素敵だわ。小さい頃お祭りで騎士団の模擬戦を見てから憧れだったの!」
「女子の憧れですよねー」
「模擬戦のときは正装をするでしょう?それがまた子供心に格好良かったのよね」
「騎士様には舞台俳優にするような、熱狂的なファンもいるんですよ」
「まぁ」
マリーの言葉にチェルシーは驚いた。憧れのような想いはあったが、そんなふうにミーハーの対象として見たことがなかった。
「旦那様も騎士団に在籍されていたころは、ファンクラブがあったとか」
チクリ。なぜかその言葉に胸が針先で突かれたような痛みを覚えた。
その意味が分からず、チェルシーは胸に手を当てて首を傾げた。痛みはもうない。
「そんな人が私の夫なんて、とてもラッキーだわ」
笑って言ってみたつもりだが、少しだけ引き攣ってしまった。幸いマリーは気付かなかったようだ。
それから飾られている騎士服の素晴らしさを二人で語りだす。トラウザーズのブーツインがいいというマリーと、ジャケット背面のスリットが素敵というチェルシーの、互いの嗜好に深く共感しながら話に花を咲かせる。マリーとはやっぱりもっと仲良くなれそうだ。
紅茶を半分以上飲んだところでノックされて返事を返せば、開いた扉に見た顔がいた。
「やぁ、チェルシー殿。お久しぶり」
「まぁ!キース様!ご無沙汰しております」
太陽のような笑顔で話すのは、フレッドと同期だったキースという騎士だ。結婚式に招待したし、屋敷に遊びにきたこともある。フレッドの唯一の友だとキース自身は言っていた。フレッドは無言だったが、それは肯定なのだろう。
明るい彼と無口なフレッドは光と影のようで、目に見えない信頼関係に羨ましくなったこともある。
それにしても何故彼が?知り合いに会えて安心はしたけれど。しかし常に笑顔を絶やさないイメージのキースだが、今日はいつもに増してご機嫌に見えた。
「じゃあ、本だっけ?渡しに行こうか。案内するよ」
「そんな……中まで入ってはご迷惑になるのでは?」
完全に応接室にフレッドが来るものだと思っていたチェルシーは、まさかのキースの言葉に驚きを隠せない。
「さっきフレッドに会ったからさ。奴は団長室にいるよ。了承を貰ったから忘れ物を一緒に渡しに行こう」
フレッドに会った方が絶対面白いから、というキースの言葉に首を傾げつつも彼についてマリーと二人、部屋を出た。