可愛すぎてつらい
22.もっと知りたい
瞼越しに光を感じた。
徐々に浮上する意識とともに、体が身動き取れないことに気づく。寝返りを打つのを諦めて、重い瞼をこじ開けることにした。ゆるりと睫毛の隙間から見える、いつも見える天蓋は……。
(肌色だったかしら?)
たしかそんな色では無かったはず。そうぼんやり思ったチェルシーは目線を上にして。
「……!!」
思わず上げそうになった悲鳴をなんとか飲み込んだ。目の前の肌色は夫であるフレッドの鎖骨辺りで、彼に抱えられるようにして寝ていたのだ。なるほど身動きが取れないはずだ。肩当りには夜着が見えるので、彼は羽織っただけの状態なのだろう。
チェルシーが自分の身体に意識を向けると、どうやら夜着をきちんと着せられているし、サッパリとしているから色々と綺麗にしてくれたようだ。几帳面なフレッドらしい。どうやってされたのだろうか……。ちょっぴり、いや、かなり恥ずかしい。でも嬉しかった。あんなにチェルシーに興味もなかった彼がお世話をしてくれたなんて。
フレッドは夫であるしベッドを共にしているが文字通り只それだけであって、二人の間には見えない壁があるかのように個々で寝るのが暗黙の了解となっていたはずなのに。昨晩は壁が崩壊したらしい。とうとう革命が起きたのだ。
(そういえば……)
驚きからすっかり目が覚めてしまったチェルシーは、段々と昨夜のことを思い出した。
執務室で互いに求め合った後、ぐったりしたチェルシーの身体を抱えたフレッドは寝室に続く浴室へと連れて行った。フワフワと揺られながら廊下を移動したのを覚えている。その時は気にもしなかったけれど、声を掛けられた覚えはないので誰にも会わなかったのだろう。
情事の名残で碌に抵抗も出来ぬままフレッドに身を任せていると衣服を脱がされて、浴室で膝に乗せられ足の先から丁寧に泡で洗われたのだ。フレッド自らの素手で、それはもう丁寧に。
敏感に尖ったままの胸の飾りを指の腹をすり合わせるようにして扱かれ、足の付け根も指が花弁の中まで潜り込む。洗う為ではない明確な目的のある指の動きに再びチェルシーは高みへと昇らされた。
泡を流してもらい、湯船に背後から抱えられたまま浸かると尻の下に硬くなった存在を感じ、その頃にはチェルシーも理性が取っ払われてしまっていたので、向かい合って重なり合った。バシャバシャと水音が跳ねる音が今も耳に残っている。
いつも身を清める浴室でなんてこと、と思いながらも唇を深く重ね合わせると堪らない。夢中で貪っていると、突然楔を抜いたフレッドに再び抱えられ、身体を拭かれてベッドへと下ろされた。ずっとくっ付いていたぬくもりが離れてしまうのが寂しくて、しがみ付いた気がする。
それから結局ベッドの上でも絡み合い、時折彼の唇から果実水を流し込まれ、チェルシーはただ翻弄されるだけだった。
(氷伯爵だなんて言われてるのに、あんなに熱い方だったのね……)
朧気ながらも昨晩を思い出すと恥ずかしさとともに愛しさが芽生える。終始彼はチェルシーに愛を囁き、そして優しかった。これまでそんな彼を知っている女性がいたかもしれないけれど。こんなにも素敵な男性を放っておくわけがないのだから。変えられない過去に胸がチクリと痛むが、今はチェルシーだけのフレッドであってほしい。
けれど街での目線が忘れられない。あんな視線を彼はずっと向けられていたのだ。そんなことを今更ながら知ってしまったことが少しだけ苦しい。思い出しても苦しくなってしまうなんて、こんな感情は初めてだった。
名状しがたい感情がこみ上げてきたので目の前の肌に顔を埋めると、昨晩何度も包まれた彼の匂いがしてモヤモヤした黒いものが霧散していく。それと同時に下腹部がきゅんと甘く締め付けられて、そんな自分自身に驚きを隠せない。あれほど求められたのにまだ疼いているなんて。はしたないけれど、また同じような状況になれば喜んで身体を開くのだろう。
それでも疲労感は相当のもので。一日中出掛けていた時の比ではない。確かに疼きはするが、包み込まれる温かさはホッと安心できるものだった。
(今夜もこうして寝ていただけないかしら)
しかし、そう言葉にするのはあまりにも恥ずかしい。けれどフレッドならば快く応じてくれるような気もする。
今までのことを思い出すと会話も続かず冷たい態度ではあったが、チェルシーの希望は叶えてくれている。巷で話題の小説が欲しいとか、花や野菜を育てたいとか大したお願いはしたことがなかったけれど。嫁ぎ先で何不自由ない生活を送らせてくれているのだから。
フレッドはもしかしたらチェルシーが思っているよりも、ずっと優しくて愛情深い人なのかもしれない。ただそれが分かりづらいだけで。
そう思うと不器用な彼が愛おしい。今ならば彼が紙に『可愛すぎてつらい』と書きなぐった気持ちが分からなくもない。この気持ちが溜まりに溜まって、やり場がなかったらチェルシーもそうしてしまいそうだ。
なんだか初恋もままならないうちに愛を知ってしまった気がする。急激な心境の変化に戸惑うばかりだが、ちっとも嫌な感情ではない。
(もっと知りたいわ……)
感情の意味はもちろんだが、フレッドのことも。幼い頃に遊んだ思い出や、騎士団のこと。今の仕事のこと。教えられる範囲でいいから、話してほしい。今まで圧倒的に会話が少なすぎたのだ。
上を見上げれば薄っすらと髭が見える。体毛が薄いフレッドは頬もツルツルとしているから、生えないのかと思っていた。これも今まで知らなったことだ。チェルシーだけが知るフレッドの色んなこと。そっと触ってみれば指先にチクチクとした感触。
「可愛い……」
思わず呟いた自分に驚く。小さくてフワフワしたものならともかく、成人した男性の朝に疎らに生えた髭になんてことを。髭自体が可愛いわけではなくて、それがフレッドだからだということに、まだチェルシーは気付いてはいなかった。
胸にこみ上げる愛しさに我慢できなくなって、チェルシーはフレッドの背中に手を回して力を込めた。
徐々に浮上する意識とともに、体が身動き取れないことに気づく。寝返りを打つのを諦めて、重い瞼をこじ開けることにした。ゆるりと睫毛の隙間から見える、いつも見える天蓋は……。
(肌色だったかしら?)
たしかそんな色では無かったはず。そうぼんやり思ったチェルシーは目線を上にして。
「……!!」
思わず上げそうになった悲鳴をなんとか飲み込んだ。目の前の肌色は夫であるフレッドの鎖骨辺りで、彼に抱えられるようにして寝ていたのだ。なるほど身動きが取れないはずだ。肩当りには夜着が見えるので、彼は羽織っただけの状態なのだろう。
チェルシーが自分の身体に意識を向けると、どうやら夜着をきちんと着せられているし、サッパリとしているから色々と綺麗にしてくれたようだ。几帳面なフレッドらしい。どうやってされたのだろうか……。ちょっぴり、いや、かなり恥ずかしい。でも嬉しかった。あんなにチェルシーに興味もなかった彼がお世話をしてくれたなんて。
フレッドは夫であるしベッドを共にしているが文字通り只それだけであって、二人の間には見えない壁があるかのように個々で寝るのが暗黙の了解となっていたはずなのに。昨晩は壁が崩壊したらしい。とうとう革命が起きたのだ。
(そういえば……)
驚きからすっかり目が覚めてしまったチェルシーは、段々と昨夜のことを思い出した。
執務室で互いに求め合った後、ぐったりしたチェルシーの身体を抱えたフレッドは寝室に続く浴室へと連れて行った。フワフワと揺られながら廊下を移動したのを覚えている。その時は気にもしなかったけれど、声を掛けられた覚えはないので誰にも会わなかったのだろう。
情事の名残で碌に抵抗も出来ぬままフレッドに身を任せていると衣服を脱がされて、浴室で膝に乗せられ足の先から丁寧に泡で洗われたのだ。フレッド自らの素手で、それはもう丁寧に。
敏感に尖ったままの胸の飾りを指の腹をすり合わせるようにして扱かれ、足の付け根も指が花弁の中まで潜り込む。洗う為ではない明確な目的のある指の動きに再びチェルシーは高みへと昇らされた。
泡を流してもらい、湯船に背後から抱えられたまま浸かると尻の下に硬くなった存在を感じ、その頃にはチェルシーも理性が取っ払われてしまっていたので、向かい合って重なり合った。バシャバシャと水音が跳ねる音が今も耳に残っている。
いつも身を清める浴室でなんてこと、と思いながらも唇を深く重ね合わせると堪らない。夢中で貪っていると、突然楔を抜いたフレッドに再び抱えられ、身体を拭かれてベッドへと下ろされた。ずっとくっ付いていたぬくもりが離れてしまうのが寂しくて、しがみ付いた気がする。
それから結局ベッドの上でも絡み合い、時折彼の唇から果実水を流し込まれ、チェルシーはただ翻弄されるだけだった。
(氷伯爵だなんて言われてるのに、あんなに熱い方だったのね……)
朧気ながらも昨晩を思い出すと恥ずかしさとともに愛しさが芽生える。終始彼はチェルシーに愛を囁き、そして優しかった。これまでそんな彼を知っている女性がいたかもしれないけれど。こんなにも素敵な男性を放っておくわけがないのだから。変えられない過去に胸がチクリと痛むが、今はチェルシーだけのフレッドであってほしい。
けれど街での目線が忘れられない。あんな視線を彼はずっと向けられていたのだ。そんなことを今更ながら知ってしまったことが少しだけ苦しい。思い出しても苦しくなってしまうなんて、こんな感情は初めてだった。
名状しがたい感情がこみ上げてきたので目の前の肌に顔を埋めると、昨晩何度も包まれた彼の匂いがしてモヤモヤした黒いものが霧散していく。それと同時に下腹部がきゅんと甘く締め付けられて、そんな自分自身に驚きを隠せない。あれほど求められたのにまだ疼いているなんて。はしたないけれど、また同じような状況になれば喜んで身体を開くのだろう。
それでも疲労感は相当のもので。一日中出掛けていた時の比ではない。確かに疼きはするが、包み込まれる温かさはホッと安心できるものだった。
(今夜もこうして寝ていただけないかしら)
しかし、そう言葉にするのはあまりにも恥ずかしい。けれどフレッドならば快く応じてくれるような気もする。
今までのことを思い出すと会話も続かず冷たい態度ではあったが、チェルシーの希望は叶えてくれている。巷で話題の小説が欲しいとか、花や野菜を育てたいとか大したお願いはしたことがなかったけれど。嫁ぎ先で何不自由ない生活を送らせてくれているのだから。
フレッドはもしかしたらチェルシーが思っているよりも、ずっと優しくて愛情深い人なのかもしれない。ただそれが分かりづらいだけで。
そう思うと不器用な彼が愛おしい。今ならば彼が紙に『可愛すぎてつらい』と書きなぐった気持ちが分からなくもない。この気持ちが溜まりに溜まって、やり場がなかったらチェルシーもそうしてしまいそうだ。
なんだか初恋もままならないうちに愛を知ってしまった気がする。急激な心境の変化に戸惑うばかりだが、ちっとも嫌な感情ではない。
(もっと知りたいわ……)
感情の意味はもちろんだが、フレッドのことも。幼い頃に遊んだ思い出や、騎士団のこと。今の仕事のこと。教えられる範囲でいいから、話してほしい。今まで圧倒的に会話が少なすぎたのだ。
上を見上げれば薄っすらと髭が見える。体毛が薄いフレッドは頬もツルツルとしているから、生えないのかと思っていた。これも今まで知らなったことだ。チェルシーだけが知るフレッドの色んなこと。そっと触ってみれば指先にチクチクとした感触。
「可愛い……」
思わず呟いた自分に驚く。小さくてフワフワしたものならともかく、成人した男性の朝に疎らに生えた髭になんてことを。髭自体が可愛いわけではなくて、それがフレッドだからだということに、まだチェルシーは気付いてはいなかった。
胸にこみ上げる愛しさに我慢できなくなって、チェルシーはフレッドの背中に手を回して力を込めた。