可愛すぎてつらい
23.こみ上げる
フレッドは騎士団の訓練や模擬戦の後などとは違った種類の、幸せな疲労感に包まれて今晩も深い眠りだった。
いつも少し離れた場所で静かに寝ているチェルシーを、抱き締めて寝たい欲求に蓋をしていた。それでも手を伸ばして流れている柔らかな髪をひと房指に絡ませたり、彼女の手にそっと触れたりできればよかった。隣で彼女が寝ているだけで幸せなのだから。
だから意識が浮上して腕の中のぬくもりに気付いた瞬間、フレッドは衝撃を覚えて一気に覚醒した。そして昨晩のことを思い出す。
執務室で激しく絡み合った後、ぐったりとしたチェルシーを抱えて浴室に連れていった。そこでなんと彼女の頭の天辺から爪先まで丁寧に洗うという長年の夢が叶ったのである。出来るならばチェルシーの生活に関わる全てを自らの手で行ってやりたいと思っていたのだ。
それにしても素手で彼女の肌を洗い上げるのは想像以上に好かった。必要以上にチェルシーの敏感な部分を弄ってしまったのは、彼女の反応があまりにも良かったからで。泡とは違うぬめりと上気した肌にフレッドが興奮しないわけがない。
そして湯船にも一緒に浸かり、ただただ幸せだった。今後もこうして入浴したいが、どうやって彼女にそれを提案していいものか分からないので、とりあえず暇を見つけて早急に案を考えねばなるまい。
幸せを噛みしめつつも身体はいつも妻を求めているフレッドなので、柔らかな腰回りが自身に触れ、向かい合わせに抱き着いてきたチェルシーに我慢なんてできようはずもない。さすがにこのままでは逆上せてしまうと、未だ居座りたがるモノを無理矢理引き抜いてベッドへと運んだのだった。
もう終わりにしなければと丁寧に拭いて果実水を飲ませようと離れたら、なんとチェルシーが首にしがみついて耳元で「行かないで」と囁くではないか。
フレッドは何事にも常に冷静で客観的で意志の固い人間だと自負している。が、チェルシーを前にすると意志は羽毛よりも柔らかに舞い散ってしまうのだと知った。いや、知っていた。
それでも普段ならばなんとか律することが出来たけれど、情欲に溺れたチェルシーを前に呆気なく落ちた。もうストンと真っ逆さまに。こんなにも想いをぶつけて嫌われはしないだろうか、と頭の奥で密かに怯えながら。けれどフレッドの中でチェルシーが求めることに、応えないという選択肢はない。
しかし途中から箍が外れて、やり過ぎてしまったようだ。
反省しつつ気絶するように寝てしまったチェルシーの身体を清めて、夜着をきっちりと着せた。
(昨晩の出来事は現実だったのか……)
現に腕の中にチェルシーがいて、夢などではない。分かっている。
目を開けて確かめたい気持ちと、このまま微睡んでいたい気持ちがせめぎ合う。腕の中の存在を解放したくない。しかし意識が浮上した以上、愛しいチェルシーとくっ付いていることはまたしても不埒な考えが過ってしまう。
どうしたものかと思案していると、そっと顎に指先が触れた。
「可愛い……」
少し掠れた声と共に指先が動いて優しく撫でられ、フレッドは驚き目を開けてしまった。暫し固まっていると、顎を触っていたチェルシーの手が背中に回って、ギュッと抱き締められ胸元に擦り寄ったのだ。
「……っ!」
息を飲んだと同時に身じろいでしまった。
「フレッド様、おはようございます。……きゃっ!」
今までよりも数段甘いチェルシーの声が耳に届くと、あまりの多幸感に熱いものがこみあげてきて思わず強く抱きしめた。突然抱えられて苦しかったのか、プハッとチェルシーが顔を逃した気配がする。
「……フレッド様?」
チェルシーは優しげな声で伺ってくれるが、フレッドは返事が出来ないでいた。声を出してしまったら、溢れ出してしまいそうで。
——ずっとチェルシーが好きで、彼女だけを想って生きてきたのだ。
いつも少し離れた場所で静かに寝ているチェルシーを、抱き締めて寝たい欲求に蓋をしていた。それでも手を伸ばして流れている柔らかな髪をひと房指に絡ませたり、彼女の手にそっと触れたりできればよかった。隣で彼女が寝ているだけで幸せなのだから。
だから意識が浮上して腕の中のぬくもりに気付いた瞬間、フレッドは衝撃を覚えて一気に覚醒した。そして昨晩のことを思い出す。
執務室で激しく絡み合った後、ぐったりとしたチェルシーを抱えて浴室に連れていった。そこでなんと彼女の頭の天辺から爪先まで丁寧に洗うという長年の夢が叶ったのである。出来るならばチェルシーの生活に関わる全てを自らの手で行ってやりたいと思っていたのだ。
それにしても素手で彼女の肌を洗い上げるのは想像以上に好かった。必要以上にチェルシーの敏感な部分を弄ってしまったのは、彼女の反応があまりにも良かったからで。泡とは違うぬめりと上気した肌にフレッドが興奮しないわけがない。
そして湯船にも一緒に浸かり、ただただ幸せだった。今後もこうして入浴したいが、どうやって彼女にそれを提案していいものか分からないので、とりあえず暇を見つけて早急に案を考えねばなるまい。
幸せを噛みしめつつも身体はいつも妻を求めているフレッドなので、柔らかな腰回りが自身に触れ、向かい合わせに抱き着いてきたチェルシーに我慢なんてできようはずもない。さすがにこのままでは逆上せてしまうと、未だ居座りたがるモノを無理矢理引き抜いてベッドへと運んだのだった。
もう終わりにしなければと丁寧に拭いて果実水を飲ませようと離れたら、なんとチェルシーが首にしがみついて耳元で「行かないで」と囁くではないか。
フレッドは何事にも常に冷静で客観的で意志の固い人間だと自負している。が、チェルシーを前にすると意志は羽毛よりも柔らかに舞い散ってしまうのだと知った。いや、知っていた。
それでも普段ならばなんとか律することが出来たけれど、情欲に溺れたチェルシーを前に呆気なく落ちた。もうストンと真っ逆さまに。こんなにも想いをぶつけて嫌われはしないだろうか、と頭の奥で密かに怯えながら。けれどフレッドの中でチェルシーが求めることに、応えないという選択肢はない。
しかし途中から箍が外れて、やり過ぎてしまったようだ。
反省しつつ気絶するように寝てしまったチェルシーの身体を清めて、夜着をきっちりと着せた。
(昨晩の出来事は現実だったのか……)
現に腕の中にチェルシーがいて、夢などではない。分かっている。
目を開けて確かめたい気持ちと、このまま微睡んでいたい気持ちがせめぎ合う。腕の中の存在を解放したくない。しかし意識が浮上した以上、愛しいチェルシーとくっ付いていることはまたしても不埒な考えが過ってしまう。
どうしたものかと思案していると、そっと顎に指先が触れた。
「可愛い……」
少し掠れた声と共に指先が動いて優しく撫でられ、フレッドは驚き目を開けてしまった。暫し固まっていると、顎を触っていたチェルシーの手が背中に回って、ギュッと抱き締められ胸元に擦り寄ったのだ。
「……っ!」
息を飲んだと同時に身じろいでしまった。
「フレッド様、おはようございます。……きゃっ!」
今までよりも数段甘いチェルシーの声が耳に届くと、あまりの多幸感に熱いものがこみあげてきて思わず強く抱きしめた。突然抱えられて苦しかったのか、プハッとチェルシーが顔を逃した気配がする。
「……フレッド様?」
チェルシーは優しげな声で伺ってくれるが、フレッドは返事が出来ないでいた。声を出してしまったら、溢れ出してしまいそうで。
——ずっとチェルシーが好きで、彼女だけを想って生きてきたのだ。