初老アイドルが一般人女子との恋を成就させるまで

横から突然に聞こえてきた声に、航太は反射的に体を震わせ、声の聞こえてきた横を見た。



「暁!」
「そんな驚かなくても」
「いつ帰ってきたんだよ」
「今だよ。で、そしたら航太がスマホ見てなんか嬉しそうな顔してたから」
「…あ、そ」
「で、メールの相手は誰?この間のロケの先生?」



そう暁に聞かれて、航太は一瞬答えに詰まった。
普通の人なら気づかないほどかもしれないが、20年以上一緒にいる暁が、それを見逃すはずがない。



「そっか、図星か」
「え?この間の先生って、『ハロー,your タウン』のロケで会った茜先生?」



暁の納得した言葉から間髪入れずに会話に入ってきたのは、先ほどまでパソコンとにらめっこしていた一仁だった。
航太が見れば、その目は面白いものを見つけた子どもと同じ目をしていて、頭の片隅でこいつ記憶力いいなと思いながら。航太は思わず身構える。



「なにリーダー、どういうことどういうこと!?」
「いや…」
「その茜先生と、メールしてるみたいよ」
「え!何それいつの間に!」
「おい暁!」
「琉星!琉星!起きて起きて!」
「おい起こすなよ!」



航太の抗議も空しく、一仁に全力で起こされた琉星はけだるそうにその目を開けた。



「んだよ一仁…」
「あのね!リーダーがね、こないだのロケで会った茜先生とメールしてるんだって!」
「……詳しく話を聞こうか」



途端に体を起こし、寝起きの表情と雰囲気を消した琉星は、にやりと笑いながら航太を見つめる。
こいつ、起きてたな。そう航太が思うのも無理はない話だった。
航太の目の前には、琉星の不敵ながらも興味津々の目と、琉星の隣に座った一仁のキラキラと期待に満ちた目。
隣を見れば、いつの間にかソファに腰を下ろしていた暁のにこやかだけれども有無を言わせない目。
20年以上一緒にいれば、嫌でも分かる。
この目からは逃げられない、と。
航太は深くため息をつくと、口を開いた。



「…何が聞きたい」
「はい!」
「はい一仁」
「いつ連絡先聞いたんですか?」
「…聞いたっつーか、連絡先渡しただけど…、ロケの帰り」
「そういやリーダー、忘れ物あるって戻ってたな」
「そっかー、あん時かぁ」
「はい」
「はい琉星」
「付き合ってんの?」
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