大和の風を感じて3~泡沫の恋衣~【大和3部作シリーズ第3弾 】
大泊瀬皇子の訪れ
穴穂大王(あなほのおおきみ)の暗殺により、眉輪(まよわ)葛城円(かつらぎのつぶら)が亡くなってから早2週間が立っていた。

韓媛は父親が死んでしまい、自身の住居も炎で燃え尽きて失くなってしまった。

その後は、彼女の母親の紫津媛(しずひめ)の実家に身を寄せていた。これは葛城円が生前から決めていた処置である。

円は以前に起こった葛城能吐(かつらぎののと)の事件後、もし自身に何かあっては娘を守れなくなると思い、彼のもう1人の従弟である葛城蟻臣(かつらぎのありのおみ)と話しをしていたのである。彼は市辺皇子(いちのへのおうじ)の妃の荑媛(はえひめ)の父親にあたる人だ。

お互いにもしものことがあれば、その後は葛城や相手の家族を助けてやって欲しいと。

よって今後は韓媛の後見人はこの蟻臣が引き受けることとなる。韓媛もこのことについては、生前の葛城円より聞かされていた。

その後大泊瀬皇子(おおはつせのおうじ)も葛城円の娘の韓媛を殺すことはしなかった。
もしそのつもりなら、そもそもあんな危ない状況の中、彼女を助けにはこなかったはずだ。

そして葛城円が亡くなったことにより大臣(おおおみ)が不在になってしまったため、その代わりに平群真鳥(へぐりのまとり)が新たに大臣に付く。
また大連(おおむらじ)大伴室屋(おおとものむろや)以外に新たに物部目(もののべのめ)も付く形となった。

こうして豪族葛城は大和の中央の実権から退くこととなる。

だが韓媛に至っては母親の実家で問題なく過ごすことができており、また彼女の後見人も決まった。
その後見人の蟻臣も近々韓媛に会いにきてくれる話になっている。

そのため、彼女の生活と身の安全は何とか守られる形となった。


一方大和の方ではまだ次の大王は決まっていない。
今回の大泊瀬皇子自身の身勝手な行動には、周りの者達もひどく驚かされる形となったが、そこまで責められてはいないようだ。

だが葛城円が自身の死によって大臣から降りたため、大泊瀬皇子が葛城の元を訪れる理由が亡くなってしまった。

そのため韓媛も、この2週間彼とは全く会っていない。

「大泊瀬皇子は元々他の女性を正妃や妃に考えていた。だからこのまま彼と会わない方が、互いのためにも良いのかもしれない」

(それに彼が他の女性と幸せにしている所なんて、余り見る気にもなれないわ……)

ただ韓媛もいずれはどこかに嫁がないといけない。それについては後見人の葛城蟻臣が今後は対応するのかもしれない。

ただ彼女自身、今は中々そんな気分にはなれない。まだ父親が亡くなって2週間しか経っていないのだ。その悲しみからもまだ完全には立ち直れていない。

「本当に私はこれからどうなるのかしら」

とりあえず今度葛城蟻臣が自分に会いにきてくれると聞いている。今後のことについてはそれから考えれば良いだろう。
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