瞬きもせずに・・
「ねぇねぇ」



 初日から最悪だぁ・・・・

 ハァ~

 先生の終業挨拶で今日1日の授業が終わった。昨日の入学式は別段何事も無く終わったものの登校初日に保健室からスタートとは情けない。



  「ねぇねぇってばー!」



 憂鬱な気持ちで沈んでいると後ろからツンツンと背中を刺された



  「えっ!」

  「幡野さん!」



 えーっと確か日高さんだったかな?



  「日高さん?」

  「そう、私、日高可鈴かりんよろしくね」

 後の席の日高さん。とても人なつっこいまん丸な瞳とショートな髪型、目下の涙ボクロが可愛い。



  「えーっと私は幡野恵、宜しく」



 日高さんはニコニコしながら頷く。



  「それよりさぁ1時間目何処にいたの?」



 だよね・・・

 私はいつの間にか保健室で寝ていた。目が覚めると保健室の先生と担任の先生が私を覗き、私の頭には包帯が巻かれていてる。先生の後ろには、教頭先生までいる始末。担任から聞かされた内容は、二年生の生徒におぶられ寝かされていたとの事。



 先生達が出勤前の事でその生徒が色々としてくれていた事。

 軽い脳震とうとの事で一応先生は精密検査を進めてくれたが私としては少し心配だけど恥ずかしいので断った。



 目が覚めた時は包帯がぐるぐるに巻かれていたけど流石に大袈裟なので、外してもらった。

 オデコには大きな絆創膏がタンコブを隠すように張られてる。

 まあ一応簡単に日高さんには説明した。



  「二年生の先輩とね~」



 日高さんはニヤニヤしながら話を聞いていた。



  「日高さん!何もないよ!」



  「日高さんじゃなくて可鈴でいいよ」



  「なら私も恵でね」



  「うん、じぁあ恵ちゃんはなんでテニスコートにいたの?」



 うーん。お父さんとの話題まで出して不可抗力を説明した。

 何か可鈴ちゃんの不思議な眼差しで見られるとつい話してしまう感覚になる。



  「ではそう言う事にしておきましょう!」



 1人納得したかと思うと



  「っで!その先輩はイケメン?」

 

 半分疑いながらも信じてくれたのは良いが、そこを突いてきた。私は顔が赤くなるのがわかる。



  「ほほ~そうなんだ~」



 ヤバい見透かされそうだ

 でも初対面でなぜそこまで親近感があるのか!

 恐るべし日高可鈴!



 そんな話をしながらいそいそとを帰り支度をしていたら男子生徒に呼び止められた。



  「幡野さん!二年生の人が読んでるよ」



 ふと声の方を見ると黒板側の入口に同じクラス生徒の男子生徒がこちらをみてる。

 少し緊張しながら行ってみる。



  「あっ!」



 廊下には見覚えのある人が立っていた。



  「幡野さん?」



  「は、はい」



 一気に心臓が高鳴る。

 顔が熱くなるのがわかる。なるべく平静を装い返事をした。



 何やら私の顔をジロジロ見てる!いや頭の怪我を見てるのか。



  「ごめん、怪我させちゃって」



 先輩は、私の前で頭を下げる。

 廊下にいる生徒達がこちらに気づきチラホラ見てくる。



  「先輩!け、怪我は大したこと無くて少し腫れた位だし全然大丈夫ですから」



  「とりあえず頭を上げて下さい。」



  「いや、保健室の先生も一応精密検査を受けた方が良いって言ってたから・・・」



 先輩はまだ頭を上げない。



「み、見て下さい!大したことないですよほら!」



 私はオデコの絆創膏を差す。先輩はゆっくりと顔を上げ私の顔を見た。

 が!近い!

 更に顔が熱くなってゆく



 先輩は心配そうにオデコを見るが、まだ不安そうだ。



  「そ、それに私が悪いんです。突然コートに入ってしまって・・」



 そう、私が朝練をしている所、勝手に邪魔をしたのが原因だったのだから本来、先輩は悪くないはずだ。

 私も頭を下げた。



「いや、僕が放りっぱなしでっボールを入口付に置いといたのがイケなかった。そのボールが君の足を滑らせたんだから」



 そうだったんだ私は空き缶を避けようと動いたときにボールに足を取られたのか。

 先輩はもう一度頭を下げる。



「もう二人して頭を下げてもしょうがないですよ、もう」



 ふと横を見ると可鈴ちゃんがいつも間にか立っていた。



「私は恵ちゃんの友達の日高です。えーっと先輩は?」



「あー!悪いまだ名前言って無かったね、二年七組の桜井です。」



 先輩は桜井っていうんだ。



「桜井先輩!ここは一つ借りと言う事で良いんじゃないでしょうか?恵ちゃんもそれでいいよね?」



「可鈴ちゃん?」



「借りとは?」



「今回の事は恵ちゃんにも非もあるしお互い様と言う事で。でもやっぱり後輩の女子に怪我を負わせたのはやっぱり不可抗力とはいえ新入生の可憐な一年生に怪我は不味いと思います。なので桜井先輩には何か、今後恵ちゃんが困ったときに頼みごとを聞くというのはいかかでしょう?」



 可鈴ちゃんがズイッと桜井先輩の顔を見る、すると先輩は首を引いたが、少し考えて一人頷き私を見た。



「そうだねそうしようか、幡野さん!もし困ったことがあれば相談にのるから何かあれば僕に相談しにきてくれないか?」



 少し桜井先輩の顔の表情が明るくなった。

 私も肩の力が抜けてホットした。



「はい。私はそれでも・・・」



 桜井先輩の瞳が優しい・・・



  「奏斗かなとそろそろ行くぞ!」



 廊下の先の方から桜井先輩の友達だろう人が声をかけてきた。



  「じゃあ幡野さん。改めてこれごめんね」



 桜井先輩はオデコを手を当てる。先輩の手がヒンヤリとして気持ちが良い。と同時に顔面温度が急上昇するのがわかる。多分可鈴ちゃんには頭から機関車○ーマスの様に蒸気が見えていることだろう。

 私は放心状態のまま、軽く手を挙げていく桜井先輩の後ろ姿をぼんやり見ていた。



  「恵ちゃんはこれから、多分、そう、ぜったい、敵多い愛という戦場の学園生活を送るのんだね」



  「はい」



  「はい?」



  「とりあえず私は恵ちゃんの友達1号として応援するから」



  「うん」



  「うん?」



 なぜか『は~』と隣でため息をする可鈴ちゃんを少し気にしながらオデコの絆創膏を少し触ってみた。

 そして少し冷たい、けど温かかった先輩の指先の体温を思い出していた。







 可鈴の話を上の空に、未だ桜井先輩が去った廊下を見つめる恵を『先が心配だ』と思い、頭を振りながら恵の手を引いて昇降口に帰る日高。



 登校初日にして、親友と呼べる?友と、恋と呼べる?先輩を見つけた恵の高校生活が始まった。



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