虹色のキャンバスに白い虹を描こう
母が父に持っていた感情。いま白先輩が持っている感情。きっと違わない。それは恋情という、自分自身でも制御の難しい熱だ。
そしてたった今、僕が彼女に対して抱いているこの感情だって。
「……犬飼くんが欲しいのは、私じゃない」
それまで弱々しく揺れていたはずの目の前の瞳が、不意に温度をなくした。掴んだ手がするりと離れていく。
「犬飼くんが欲しいのは、『綺麗で純粋な私』だよ。でもそれは私じゃない」
だから、ごめんね。
白先輩の静かな謝罪が落ちる。
この時、この瞬間、僕の天使は死んだ。あっさりと羽を折って、飛び降りてしまった。
呆然と彼女の顔を見つめる。
沈黙の中、荒々しい音を立てて突然開いたドアから入ってきたのは、白先輩の友人でもある美術部の先輩だった。
「はあ……良かった……」
間に合った、と零したその先輩は、膝に手をついて呼吸を整えている。それからすぐに姿勢を戻してこちらまで歩いてくると、彼女は机に一枚の紙を叩きつけ、鋭い視線で僕を射抜いた。
「ここですぐに書いて提出して。今なら部長に上手く言っておいてあげるから」