虹色のキャンバスに白い虹を描こう
『もう邪魔な虫は全て排除しましたよ。先輩に近付く邪な奴はいない。何を憂うことがあるんです?』
『先輩。他の奴らは全員、嘘しかつきませんよ。自分をよく見せるために、平気で嘘をつく。僕にしましょう? 信じていいのは僕だけです』
『先輩を穢すものは全て塵屑です。こんなに綺麗で尊い先輩を守るのは、当然の務めでしょう?』
日に日に怯えの色が増していった白先輩の瞳を、僕は確かに見ていたはずだった。その小さな変化さえも純真で、守りたいと思っていたはずだった。
彼女をここまで追い詰めてしまったのは僕で、ここまで怖がらせてしまったのも間違いなく、僕自身だ。
自分勝手な恋情で傷つけた。傷つけてしまった。
白先輩の涙が、あの日の母の涙と重なる。今の僕は、父親と何ら変わりない――そう気付いた時、気持ち悪くて吐き気がした。
「なに黙って突っ立ってるの。早く書いて」
咎められると同時、頬に痛みを感じる。どうやら引っ叩かれたらしい。
一気に沈んでいた思考から現実へ戻ってきた。力が抜けてしまい、僕はそのまま緩慢に床に座り込んだ。
「羊。出てていいよ」
「カナちゃん……」