虹色のキャンバスに白い虹を描こう



「美波さんにね、お願いされたんだ。犬飼くんと会って欲しいって」


会場の片隅。壁際に二人並んで、先にそう切り出したのは白先輩の方だった。
当の美波さんはやや遠くで純と話している。こちらに顔を向けないのは、気を遣っているつもりなのだろうか。


「……そう、だったんですね」


やっとの思いで絞り出した自分の声は、情けないほど不安定だった。
俯きがちな白先輩の横顔を盗み見る。うん、と彼女が小さく頷いた拍子に、その柔らかそうな横髪が揺れる。

最後に白先輩と話したのは、放課後の美術室。それも半年以上前のことだ。
だけれど、水に流すにしては短すぎる期間のような気もするし、そもそも水に流すかどうかは僕が決めることではない。


「白先輩」


ともかく、ずっと彼女に伝えられていなかったことを、今ここで清算しなければならないのは確かだ。


「本当に、すみませんでした。あなたを怖がらせて、傷つけて」


腰を折り、深々と頭を下げる。
一ミリも濁っていない。心の底から思っている。僕は、彼女に謝れなかったことを、あの日から悔やみ続けていたのだと実感した。


「それから、今日僕に会いに来てくれて、ありがとうございます」

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