虹色のキャンバスに白い虹を描こう
いくら白先輩が優しい人だからといって、僕に対して良い印象は持っていないはずだ。
ここへ来ない選択肢は用意されていた。それでもこうして顔を合わせて、言葉を交わすことを選んでくれた。それだけで十分だ。
「……本当は、すごく迷ったんだ。正直、気まずいなあって思ったし、犬飼くんのこと、よく分からないし」
恐らく迷ったというよりも、悩んだという方が近かったのだろう。彼女の話し方からは、そんな空気が漂っていた。
ゆっくりと顔を上げた僕に、白先輩が続ける。
「でも、美波さんがどうしてもって。私が来るまでずっと待ってるって……一生懸命、泣きそうな顔で言うから」
そう告げた彼女の眉間が、ぎゅっと寄っている。こちらもこちらで、どことなく泣き出してしまいそうな顔だ。
「犬飼くん。もう絵描いてないって、ほんと?」
「それは……」
「犬飼くんの絵が見たいんだって。私からも説得してくれませんかって、頼まれちゃったよ」
その時の美波さんの様子が、不思議と手に取るように分かった。
きっと強引で感情的で、筋道立てた説明なんてありはしない。突拍子もないし、いっそ抉り取るかのように、彼女は僕を、そして誰かを突き動かしていく。
「……もしかして、私の、せい?」
「違います!」