虹色のキャンバスに白い虹を描こう
そこだけ切り取ってしまえば、やる気がない部員の言葉にしか聞こえないだろう。もちろん彼女は、僕が知る限りでは真面目で努力家だった。
「……確かにそうですね。でも白先輩は、絵が好きだから続けてるんじゃないですか? 他の人だって」
「犬飼くんは、絵が好きじゃないの?」
「好きでもないし、嫌いでもないです」
白先輩が黙り込む。それから、「嘘だ」と呟いた。
「それは嘘だよ。だって、絵を描いてる時の犬飼くんは、別人みたいだもん」
彼女の瞳には、真理を照らす光が宿っている。白先輩は僕に「嘘だ」と反論したけれど、彼女の言葉に嘘は見受けられない。
とはいえ、そんなことを言われたのは初めてだった。
「みんなが犬飼くんのことをすごいって言うのはね、絵が上手だからっていうのもそうだけど……描いてる時の犬飼くんが、すごくて。オーラっていうのかな。一度集中すると、声掛けても全然振り返ってくれないの。自分だけの世界に入っちゃったみたいに」
「……ほんとに言ってます?」
「全部本当だよ。それで、筆を置いたら急にいつもの犬飼くんになるの。二人いるのかなって、最初は思ったくらい」