虹色のキャンバスに白い虹を描こう
いつかを思い出しているのだろうか。白先輩は目を細め、懐かしそうな声色で教えてくれた。
「これで好きじゃないなんて言ったら、怒られるよ。美術部のみんなは、犬飼くんの絵にずっと憧れてるから。……ううん、憧れてるっていうより、嫉妬、かも」
犬飼くんは、絵が好きなんだよ。
そう付け足して、彼女は今日初めて、ほんの少しだけ微笑んだ。
「理由って、それだけじゃだめかな?」
いいのだろうか。分からない。
一時の感情に左右されて自分がこの人を傷つけたことは事実だし、無償の愛なんてこの世には存在しないし、だから人は――僕は、全ての言動に理由をつけたかった。
『俺、字汚いし寝てばっかだけど、これからはなるべくちゃんとノート取るからさ。分かんないとこあったら聞いて』
『目の前に困った人がいたから助けたんです』
『損得勘定で生きるのは、苦しいからな』
裏の見えない善意は不安になる。純粋な親切が必ずしも正しいとは限らない。
好きだと思うこと、あるいは衝動に蓋をしないこと。
僕がもう一度それを認めるのは、過去のあやまちを繰り返すようなものなのではないだろうか。
「私、犬飼くんが私の絵を好きだって言ってくれて、嬉しかったよ」