虹色のキャンバスに白い虹を描こう
7.君の知らない色
握り締めた拳に汗が滲む。拳だけではない。額にもじんわりと浮かんでいるのが分かった。
美術室と記されたドアが、目の前に立ちはだかっている。大して分厚くもないそれに物怖じしてしまうのは、自分の気持ちの問題だ。
数回深呼吸をすればだいぶ落ち着いた。
スライド式のドアを開け、中に足を踏み入れる。
「……犬飼くん!?」
真っ先に声を上げたのは部長だった。突然の訪問者に驚いたのだろう、無理もない。僕は今日、美術室に来ることを誰にも話していないのだ。
白先輩と会ってから、四日が過ぎていた。その間、美波さんからは何のコンタクトもなく、僕は一人ずっと考えていた。
自分はこれからどうするべきか。絵を描くのか、描かないのか。
僕の訪問に驚いたのはもちろん部長だけではなく、今この空間にいる部員全員だ。表情からそれが見て取れる。
「ど、どうしたのいきなり……」
作業の手を止め、部長が言いつつこちらに近付いてきた。そしてふと思い当たったのか、もしかして、と呟く。
「犬飼くん。もう一度、美術部に?」
期待のこもった眼差しだった。僅かに明るくなった彼女の声色を聞き、それでも僕は伝えなければならない。
「いえ、違います。僕がもう美術部に戻ることはありません」