虹色のキャンバスに白い虹を描こう
カップを受け取った彼女が首を傾げた。
「これ、バニラじゃないです、よね?」
「いちご好きじゃなかったっけ」
生の果物は好きでも、加工されたものは好きじゃないという人はいなくもない。とはいえ、前にパンケーキを食べていた時も彼女はいちごを頼んでいたはずだ。
「えっ、好きです! 好きですけど! でも、ちょっと高くなかったです……?」
そう聞かれて、嘘をつく必要もなかったので頷いた。確かにストロベリーはバニラよりも五十円くらい高かった気がするけれど、騒ぐほどの値段でもないだろう。
「大して変わらないでしょ。早く食べないと溶けるよ」
「え、あ、あの、私自分のぶん払います!」
「別にいい」
「ええっ……」
なぜ途端にしおらしくなったのだろうか。僕の方が圧倒的に彼女に奢られた値段で言えば上である。
先にアイスを食べ始めた僕を見て諦めたのか、清はようやくスプーンを動かした。
「航先輩、ありがとうございます」
「うん」
「ふふ」
「なに?」
「何でもないです。ちょっと、嬉しくて」
今日の彼女はやけに上機嫌だ。
やっぱり僕よりも早く食べ終わった清に、そんなに美味しいなら二つともストロベリーにするべきだったか、とほんの少しだけ後悔したけれど、これまでの大きな後悔に比べれば、それはちっぽけなあやまちだった。