虹色のキャンバスに白い虹を描こう
天気の悪い日に頭が痛くなるという人は少なからずいる。低気圧のせい、だっただろうか。ともかく、梅雨時に頭痛で悩むことは珍しくない。
「いえ……大丈夫です、頭は痛くないので」
「具合悪いの?」
続けて問うても、いえ、と同じ答えが返ってくるだけだ。
顔色は悪くないし、歩いている時もふらついてはいなかった。体調が悪いわけではないというのが本当ならば、いよいよ困ってしまう。一体、彼女から活気を奪っているのは何なのだろう。
「あ、そうだ。ずっと描いてたアクリル画なんですけど、もうすぐで完成しそうなんです」
あからさまに話題を変えられた、と感じた。
それでも、彼女の絵については関心を持たずにいられないのが正直なところである。僕は彼女のスケッチしか見たことがない。あれから絵の進捗を尋ねたことは何度かあったけれど、その度に「秘密です」と躱されていたのだ。
「出来上がったら、一番に見せに行きますから」
「どれだけ上手くなったか見物だね」
僕の皮肉めいた口調に、清が控えめに笑う。いつものように言い返してこない彼女には、やはり調子が狂わされると改めて思った。