虹色のキャンバスに白い虹を描こう



彼女が言っていた「もうすぐ」とは、案外早く訪れた。

月曜日の放課後。最近元気のない清はその日、少しだけ明るさを取り戻した声で僕を呼んだのだ。


「あ、航先輩」


下駄箱付近で待っていたのだろう。僕の姿を見つけると、彼女は周りを用心深く見回してから背筋を伸ばした。


「もう帰れますか?」

「うん。……どうしたの」


そわそわと落ち着きのない様子で一歩踏み出してきた清が、実は、と切り出す。


「絵ができました。今から見てもらうこと、できますか?」


この後はどっちみち彼女と過ごす予定だったのだ、断る理由はない。
頷いた僕に、目の前の清の頬が安堵で緩んだ。


「キャンバスを学校外に持ち出すのは、さすがに駄目みたいで……」


そう説明した彼女と共に、階段をのぼる。
部長に頼み込んで、今日は特別に美術室の鍵を開けてもらったらしい。もうここへは立ち入らないと思っていたけれど、早々に戻ってくる羽目になった。


「ちょっと待ってて下さいね」


清が隣の準備室に入っていく。作品はそちらに保管してあるのだろう。
誰もいない美術室の空気を肺に取り込んで、なんとはなしに部員の絵が貼られている壁を眺めた。一つだけぽっかりと空いているのは、僕の絵が掲示されていた部分だ。

ぱたん、と背後でドアの開閉音が響き、彼女の帰りを知らせる。


「航先輩」

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