虹色のキャンバスに白い虹を描こう
振り返ると、大きなキャンバスを重たそうに抱える清がいた。手を貸そうと近付いた僕に、彼女は「そこに座って下さい!」と容赦がない。
大人しく指示に従って腰を下ろす。
「結局、最後まで何を描いたのか教えてくれなかったね」
「その方がわくわくしていいじゃないですか」
別にエンターテインメント性は求めていないのだけれど。しかし、そんな小言を口にしても彼女の機嫌を損ねるだけだと分かっていたので、心の内にとどめることにした。
「じゃあ……い、いきます」
「どうぞ」
どうやらかなり緊張しているようだ。硬い表情と声で、彼女はゆっくりとキャンバスを裏返す。
まず目に飛び込んできたのは、青だった。否――そこにあるのは、青と白、そして黒だけだ。
「これは……海?」
水平線へ向かって、船が進んでいく。荒れてもいない、波も立っていない、ひたすらに穏やかな海だ。それなのに、キャンバスの中央に描かれた船の道のりは果てしなく遠く感じられた。
ああ、やっぱり、彼女の絵には水が流れている。
写真のように正確なわけではない。ピカソのように飛び抜けて独創的なわけでもない。
だけれど、全く、抜け出せない。彼女の世界から、描く絵から。
太陽の光が射している。水面にきらめいて揺れている。その光は全部、白い。
「“航”」