虹色のキャンバスに白い虹を描こう


清の口角が、緩やかに上がる。

一切の不純物を取り除いたかのような、きめの細かい言葉だった。大切、という意味を、その響きを噛み締める。

信じる、信じないの問題ではないのだ。信じたい。僕は、彼女を信じたい。

優しい気持ちになりたい時、人はこうやって息をするのだと、身をもって知った。


「清」


喉が震える。声が震える。
体の芯は煮えたぎるように熱いのに、握り締めて開いた指先は柔らかな温かみを伴っていた。


「触ってもいい?」


キャンバスへ手を伸ばして問えば、彼女が頷く。

水面を静かになぞって、船の通った跡を確かめる。僅かな水飛沫も、反射する光の筋も、一つひとつ丁寧に紡がれていた。くっきりと輪郭の取れたタッチは、彼女を体現している。

それでいて、ひどく透き通っているのだ。
スケッチを見ているだけでは分からなかった、彼女の色の使い方。グラデーションが異様に上手い。遠くの方にある海水と雲は溶け切って、何色と形容すれば良いのだろう。雨を集めて絵の具にすれば、こんな色になるのかもしれない。


「綺麗だ」


伝えようと思って口にしたというよりも、自然と零れていた。それでも、伝えたいと思った。
だからもう一度、今度は彼女の顔を見てその言葉を差し出す。


「すごく、綺麗だ」

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