虹色のキャンバスに白い虹を描こう


僕がそう言った途端、清はぐっと唇を噛んだ。数秒、自分の中に言葉を落とし込むように瞼を閉じて、また開いた瞳が僕を映す。彼女の口元は、必死に笑おうとして歪んでいた。

最近彼女の元気がなかったのは、僕に絵を見せることへの緊張だったのだろうか。もしそうなのだとしたら、もっと解放感に満ちた表情をしてもいいはずだ。


「航先輩。私、この高校に来て、あなたに会えて、良かったです」


声色が違う。彼女は感情を包み隠さず生きているはずなのに、今の彼女からはどの感情も受け取ることができなかった。
強いて言うならば、そこにあるのは取り繕った笑顔だけだ。


「航先輩が私のために絵を描くって、そう言ってくれただけで十分です」

「……なに、どういう意味」


冷え切っていく。指先から熱が逃げて、途方もなく遠くへ行ってしまう。


「もう、いいんです。航先輩は私のためじゃなくて、自分のために絵を描くべきですから」

「もういいって……なに勝手に決めてるの? 大体、急にそんなこと――」

「だって」


明確に僕の反論を遮り、彼女は決然と告げた。


「だって、最初に言いましたよね。この絵を描き終わったら、もう航先輩の邪魔はしないって」

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