虹色のキャンバスに白い虹を描こう



次の日、放課後の下駄箱に清はいなかった。
大抵いつも彼女の方がここへ降りてくるのは早くて、気が付けば階段を駆け下りるのが習慣になっていた。

どうやら昨日の発言は本気だったらしい。


『描き上がったらもう僕のとこには来ない?』

『その絵を描き終えたら、もう航先輩の邪魔はしませんよ』


もちろん、分かっていた。最初からそういう約束で、僕らは時間を共有したのだ。
分かっている――本当に、そうだろうか。

煩わしいとしか思えなかった彼女に振り回され、自分の世界を様々な角度から眺めるようになった。出会うはずのなかった人、取り戻せるはずのなかった感情、その全ては他でもなく、彼女が僕に与えたものだ。

認める。僕はもう随分前から、彼女が隣にいることに心地よさを覚えてしまっていた。

あれほど何度も僕を大切だと語ったくせに、ここまで呆気なく去るのか。それが君の「大切」なのか。


「……時効だろ」


あんな約束、とっくのとうに忘れていた。一緒にいるための期限なんて必要ない間柄になれたと思っていたのは、僕の方だけだったようだ。

傘をさす。透明なビニールの向こうで、雨粒が弾けた。

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