虹色のキャンバスに白い虹を描こう



子供たちからの「ぜったい」を、さすがに断ることはできなかったようだ。

次の週の土曜日、清は福祉センターへやって来た。といっても、既に一人で集会室にいた僕に、純から連絡が入っただけの話である。


『いま清と一緒に向かってる』

『よく連れ出せたね』

『今日はお前が来ないって嘘ついた』


そんな具合にメッセージのやり取りをしていると、テンポよく続いていた彼からの返信が途絶えた。数分経ってから、着いた、とだけ送られてくる。


『準備いいか?』

『何の準備だよ』

『心に決まってんだろ』


机の上に伏せて置いた画用紙を指先でなぞり、息を吐く。

心の準備はとうに終わっていた。否、この一週間は心の準備をする時間でもあった。

清へのプレゼントとして、僕は絵を描くことを選んだ。それは僕の絵を見たいと言い続けてきた彼女への贈り物であったし、僕は僕のために絵を描くべきだと言った彼女への抵抗である。

僕は彼女のことを全然分かっていなかった。彼女だって、僕のことを全然分かっていない。

僕がもう一度絵を描くと決めたのは、自分のためなどではないのだ。そもそも彼女と出会わなければ、彼女が僕の絵を見たいと言わなければ、絶対にあり得なかった。
僕に筆を執らせたのは君だ。だから僕は君のために絵を描く。それだけは譲れないし譲らない。

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