虹色のキャンバスに白い虹を描こう
『いいよ。入ってきて』
そう入力して、送信ボタンを押す。すぐに既読はついた。
同時にドアの向こうから話し声が聞こえて、恐らくあの兄妹だろうと見当をつける。お兄ちゃんは、だの、いいから、だの、断片的に単語が飛び交っていた。
ドアノブが回る。そのまま開いたドアの先にいた彼女と視線がかち合う。
「え――うわっ」
僕の姿を捉えるなり目を見開いた清は、突然こちらに二、三歩よろめいた。純が後ろから彼女の背中を押したのだろう。
「ちょっと、お兄ちゃん!?」
「航としっかり話して来いよ。分かったな」
無情に閉じられた扉を前にして、清が途方に暮れているのが伝わってくる。
今日の彼女は水色のスカートに緑のブラウスと、見慣れない格好をしていた。どことなく違和感がある、といえばいいのだろうか。単にいつもとは少しテイストが違うだけ、と言われてしまえばそれまでかもしれない。
こちらに背を向けたまま立ち尽くす彼女に、努めて穏やかな口調で呼びかけた。
「清。騙してごめん」
びくりと僅かに跳ねた華奢な肩を、静かに見つめる。返事はなかったので、更に続けた。
「どうしても君と話したかった。話さなきゃいけないと思った。とりあえず、こっち向いてくれない?」