虹色のキャンバスに白い虹を描こう
返答がなければ、清が振り返ることもない。
本当なら、なぜ彼女がこうなってしまったのかを冷静に話し合うつもりだった。その上で僕の絵を手渡すことを想定していたのである。
仕方ないけれど、けしかけるしかなさそうだ。
「……清のために、描いてきたんだけど。見てもくれないの」
ぴくり、と。今度は僅かに彼女の首が動いた。数秒の間をおいて、ゆっくりこちらを振り向くようにその頭が角度を変える。効果はあったみたいだ。
恐る恐る僕に視線を投げて、清は口を開いた。
「また、嘘ついたんですか?」
「は?」
「だって、絵ないじゃないですか」
「ここにある。こっち来て、自分でめくって」
僕の目の前にある机を指さし、彼女に促す。
逡巡していたようだけれど、清は大人しくこちらへ歩いてきた。机を挟んで真正面から向き合う。
やっぱり彼女の表情は冴えないし、瞳もきちんと捉えているはずなのに、どこか合わない。
「いい、ですか?」
怯えた声が僕に問う。
「うん」
清の指先は、怖がっていた。高揚や興奮とは種類の異なる震えだ。
僕には見つめることしかできない。自分が描いたものを彼女がどう受け止めるか、任せるほかにどうしようもない。
彼女が懸命に画用紙の端を掴む。そして、裏返した。