虹色のキャンバスに白い虹を描こう
泣いていた、と語る彼は苦笑交じりで、今にも涙を零しそうで、不安定だった。視線も声も手も、頼りなく震えていた。
「あの時も今みたいに部屋にこもって塞ぎ込んでた。でも、急に元気になってな。戻ったって。空が青いって、喜んでたよ。どうしてだと思う?」
「どう、してって……」
そんなことを聞かれても分かるわけがない。質問の意図を理解できず、戸惑った時だった。
「学校説明会だ。清はお前の絵を見て、治ったって言ったんだよ」
喉の奥が熱い。指先から頭の隅々まで、血が巡っていく。僕を貫く純の濡れた瞳を、ただ見つめ返すことしかできなかった。
『航先輩の絵を初めて見た時、見えないはずの色が見えたんです』
ああそうか――そういう、ことだったのか。やっぱり僕は、彼女のことを、まだ何も分かっていなかったのだ。
最初は嘘をつくなと思った。少し経って、不思議なたとえをしているのだと思った。違う。彼女は最初からずっと、本当のことしか言っていなかった。
見えない色、見えなかった色。それは人によって変わる。
赤色盲である彼女が僕の絵を見て「赤が見えた」と言っているのだと、勝手に思い込んでいた。当時の彼女は全ての色を失っていて、僕の絵を見た後、本来見えるはずだった青や黄色などの色覚を取り戻したという意味だったのだ。