虹色のキャンバスに白い虹を描こう


純の拳がテーブルを叩く。くそ、くそ。何度も、そうやるせない苛立ちをぶつけるように、鈍く低い音が繰り返される。


『こんな状態で航先輩の絵なんて、見たくなかった……』


画用紙を裏返す前、怯えるように震えていた彼女の指先を思い出す。どことなく噛み合わない空虚な瞳。配色に違和感を覚えた服装。
君の世界が色を失ったのは、一体いつだったのだろう。明確に線引きできるほど唐突だったのか。それとも水が紙に染み込んでいくのと同様、徐々に褪せていったのか。

分からないから、聞きたいし話したい。会いたい、という願望を歌にのせるシンガーソングライターの気持ちを、初めて理解できたような気がした。


「大馬鹿野郎」


僕がその単語を拾うと同時、純の肩が僅かに揺れる。


「本人はそう言ってるけど。実際はどうなの」

「……お前、誰に言って」

「そこにいる妹だよ」


彼が息を呑む。
階段の後ろに隠れているであろう彼女に、僕はもう一度投げかけた。


「ねえ、どうなの。清」


静まり返る。長い沈黙だった。


「……気付いてたんですか、航先輩」


陰から顔を出した彼女に、「気付いたのはついさっきだよ」と打ち明ける。視界の端で黒いものが縮こまるのが見えたのだ。


「ばかじゃない。お兄ちゃんは、ばかなんかじゃないよ」

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