虹色のキャンバスに白い虹を描こう
ぎこちなく促した彼女が階段を上るので、僕もその背中に後ろからついていくことにした。
清の部屋は一番奥にあるらしい。「sayaka」とローマ字が印字されたプレートがドアにかかっていた。
中は意外にも簡素なデザインの壁紙で、至る所にぬいぐるみが置いてある。
「すみません、まさか人を通すとは思ってなくて……あんまり片付いてないんですけど」
正直な感想を述べるとするならば、部屋の主が言う通り、綺麗とは定義し難い状態であった。
床には散らばった絵の具セットや鉛筆、まっさらな画用紙。伏せられた写真立てが何個か見受けられるのが、少し気になった。
クッションの上に座っていいと許可が下りたので、腰を下ろしてさりげなく部屋を見回す。
「兄から聞きましたよね。その……色々と」
彼女の言葉に頷き、僕はそれ以上なんと声を掛ければ良いのか、完全に行き詰ってしまった。話さなければいけないのは分かっている。話したい、とも思っていた。
ただ、全く出てこない。彼女に言うべき適切な言葉が。
「航先輩が気にするようなことは、本当に一つもないです。ごめんなさい。迷惑かけてしまって……」