虹色のキャンバスに白い虹を描こう
立ち上がった清が、伏せられた写真立てを撫でる。慈しむような動作だった。恐らく、かつての友達との思い出がそこに閉じ込められているのだろう。
破り捨てないのが彼女の優しさだ。友達だった人を責めないのが彼女の生き方だ。
そんな彼女を、僕は尊敬する。本当に凄いと思う。僕には絶対にできないことだ。
「君はすごいよ」
記憶を撫でる彼女の手の平に、労いを込めて伝える。
「強くて、綺麗だ」
届いているだろうか。ありふれた薄っぺらい言葉しか使いこなせない僕は、いま心の底から想っているのだと、受け取ってもらえるだろうか。
『航先輩のこと、もっとちゃんと知りたいと思ったんです。航先輩自身のことを、私が知りたかったんです』
知りたいと思うことがそうなのだとしたら、僕も同じだ。彼女ほど真っ直ぐで眩しくはいられないかもしれないけれど、君を分かりたいし、知りたいと思う。
「そんなこと言うの、航先輩くらいです」
照れくさそうに彼女が目尻を和ませる。
やっぱり優しいですね、と。涙で潤んだ清の声が、耳朶を打った。