虹色のキャンバスに白い虹を描こう
人生の先輩である登山者と、すぐ隣にいる清からの視線が両方僕に向けられていた。さすがに誤魔化すような空気ではないので、観念して述べる。
「虹を、見に来たんです」
「虹?」
左から、右から。同じ単語を聞き返され、僕は首を縦に振った。
「白い虹です。白虹を見に来ました」
言い切ったと同時、沈黙が落ちる。それを破ったのは、清の気の抜けた声だった。
「はっこう……? って、何ですか?」
「それは、霧虹のことかな」
「えっ、おじさん知ってるんですか!?」
おじさんと呼ぶのは失礼なのではないだろうか。彼女に代わって咄嗟に「お名前は?」と問えば、彼は近江と名乗った。
「近江さん、霧虹って何ですか?」
「虹の一種だよ。普通の虹は雨粒に太陽の光が当たって見えるけど、霧虹は霧粒に光が当たることで見えるんだ。雨粒よりも細かいから、光の屈折が分散されて色が混ざり合う。それが白く見えて、白虹とも呼ばれているね」
「へええ……」
物知りですね、と感嘆のため息をついた清に、近江さんは自身のリュックからカメラを取り出す。
「実はね、一度見たことがあるんだ。その時にこの現象は一体何なんだって調べて、写真も撮ったはずなんだけど……いつだったかな」