虹色のキャンバスに白い虹を描こう
弾かれるようにして振り返る。
キャリーバックを引いた清の隣には、恐らく彼女の母親と思われる女性が一人いた。一目見てそう判断できるほどに清は母親似で、特に鼻筋から目元にかけてがそっくりだ。
「ああ……」
安堵と疲労でがくりと膝が折れる。途端に我慢していた咳がせり上がってきて、呼吸を整えるのがやっとだ。
返事もままならない僕に、清が慌てた様子で駆け寄ってきた。そのまましゃがみ込み、「大丈夫ですか」と顔を覗き込んでくる。
「もしかして――というか、やっぱり兄ですよね。それしかないですもん」
僕が頷いて意思表示だけすると、彼女は頬を膨らませた。
「もう、絶対に言わないでって言ったのに……」
そういえば純に「俺が情報源だと言うな」と釘を刺されていたような気もするが、多分それは気のせいだ。そう思うことにする。
酸素を取り込んで、少しずつ呼吸が戻ってきた。立ち上がる気力はまだないので、しゃがんだまま清に問いかける。
「何で、急に北海道?」
さすがに直接質問をされて、はぐらかすつもりはないらしい。彼女は困ったように眉尻を下げ、白状した。
「母方の祖父母が北海道にいるんです。もうすぐ夏休みですし、このまま休学して、しばらくそこで過ごすことにしました」