虹色のキャンバスに白い虹を描こう


もう、と頬を膨らませる彼女に、果たして自分が「頼んでいる側」だという意識はあるのだろうか――いや、それは僕が言えたことではない。

これ以上、非生産的な口論をするつもりはなかった。ひとまず今は妥協しておく。


「絵をみるのはいいけど、部に顔は出さないよ。それでもいいなら――」

「いいです! ありがとうございます、お願いします!」


食い気味に迎え入れられ、その空気にやや気圧される。
じゃあそういうことで、と彼女の横をすり抜けようとした時、腕を引かれた。


「どこに行くんですか?」

「どこって、帰るんだけど」

「ええっ! 航先輩、話聞いてました? 私、今すぐにでもみてもらいたいくらいなんです」


そんなことは一ミリも言っていなかったような気がするのだけれども。
意図せず眉根に皺が寄った。それを解く前に、彼女が歯を見せて笑う。


「みてくれますよね? センパイ!」


……たかるにしても、相手を間違えたかもしれない。
先週食べたパンケーキを思い出し、宙を見つめながら見通しの立たない今後に憂鬱になった。

< 22 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop