虹色のキャンバスに白い虹を描こう
鉛筆片手に、彼女がこくこくと頷く。
「あの、航先輩」
「何」
「私がスケッチし終わるまで、ここにいてくれますか?」
神妙な面持ちで尋ねられ、若干拍子抜けした。散々強引に誘ってきたくせに今更だ。
それ以上に、帰るという選択肢が浮かんでいなかった自分自身にも戸惑っていた。
「今日はなに奢ってくれるの?」
「お金取るんですか!?」
「誠意を見せて欲しいだけだよ」
「ただ奢って欲しいだけじゃないですか……! 私分かってるんですからね!」
「いいから手を動かして」
むっとした顔で口を噤んだ彼女が、視線を正面に戻す。
それから程なくして描く対象を決めたのか、紙に鉛筆の先を滑らせた。
「筆圧強すぎ。鉛筆は軽く握る」
「う、はい」
「描き始めたら手は止めない。素早く」
「え、む、無理です! そんな上手く描けません」
「良し悪しなんてどうでもいい。慣れるためにひたすら描くんだよ」
これではいつになっても帰れなさそうだ。基礎もままならない彼女に、耐えかねて端的に指摘を残していく。