虹色のキャンバスに白い虹を描こう
「お待たせしました~」
さすがに人気店というだけあって、店内は混雑していた。
注文や会計は全て彼女に投げてある。カップを二つ持って戻ってきた彼女は、片方を僕に受け渡そうと――したところで、はたと気が付いたように手を引っ込めた。
「航先輩」
にやにやと口角を上げたあたり、ろくなことを考えていないのだろうと分かってはいた。その予想を全く裏切ることなく、彼女は小首を傾げて僕に言う。
「私のこと、清って呼んでみて下さい」
「何で」
「あー! アイスが溶けちゃう、早く!」
棒読みにも程がある。非常に鬱陶しいことこの上ない。
渋々表情筋を叱咤し、僕は口の端をつり上げた。
「“美波さん”、名前は恥ずかしいから呼べないよ」
「あっ、ずるい! いまスイッチ切り替えましたね?」
しょーがないからあげます、と差し出されたカップを受け取れば、手の平にじんわりと冷たさが染みた。
「恥ずかしいって、航先輩でも思うんですね」
「君に喜ばれるのが癪なだけだよ」
「君?」
「……“美波さん”」
「だめかあ~、誘導失敗」