虹色のキャンバスに白い虹を描こう
手元のスカートは淡い黄色。彼女が持っているのも、同じ色。――いや、違う。きっとそう見えるだけだ。
何より、店員の表情がそれを物語っている。
『そのトップスと同じピスタチオカラーで……』
何色だ? 分からない。今の自分には知る術がない。
「航先輩」
彼女の呼び声に我に返る。
恐る恐る視線を移すと、僕を見つめる視線には心配の色が滲んでいた。
――最悪だ。
「……僕、先に帰るよ」
場の修復方法が分からなかった。口をついて出たのはただの逃避で、それに自分自身で苦くなる。
彼女がどことなく僕を引き留めようとしているのは感じた。けれども気付かないふりをして、踵を返した。
「航先輩!」
半ば悲鳴のような彼女の叫びに、かろうじて振り返る。
「じゃあね、“美波さん”」
学校にいる時と同じ笑みを浮かべ、穏やかに別れを告げる。このまま無表情でつき通すには、あまりに僕は脆すぎた。
前に向き直る寸前、彼女が――美波さんが今にも泣きだしそうな顔をしていたから、それが無性に苛立った。
帰りの電車で、検索ボックスに「ピスタチオカラー」と打ち込む。
『優しい緑色』
機械が返してきた結果に、優しいってなんだ、と余計に腹が立った。