虹色のキャンバスに白い虹を描こう
まあ、あれだけ称賛していた人間がこの有り様だったら、これ以上アドバイスなんてされたところで価値はないということか。何とも分かりやすい手の平返しだ。
もう無理やりどこかへ引っ張られることもないし、ゆっくりと自分の時間を過ごせる。非常に清々していた。
ただ一つ懸念点があるとするならば、美波さんの口の堅さだ。
僕が色覚異常であることは、誰にも打ち明けていない。口止めするのを忘れてしまったけれど、果たして彼女はこの事実を周囲に話すだろうか。
『僕がこういう人間だって、周りに言いたいなら言えばいいよ』
『ええ……? 言いませんよ。わざわざそんなこと』
知っていた。分かっていた。この短い時間で何を、という話かもしれない。それでも、美波さんはきっと言わないと、自分の中で確信していた。
だったら僕は一体、何をこんなに苛ついているのだろう。
彼女なら「そんなこと」で片付けて、またしつこく話しかけてくると思った? それは僕の勝手な憶測であって、彼女の変わり身を責める理由にはなり得ないんじゃないのか?
「おい、航」
固く組んだ自身の両手を見つめて思案に耽っていると、ショータが顔を覗き込んでくる。
「噂をすればだよ。あの子、お前に会いにきたんじゃねーの?」