虹色のキャンバスに白い虹を描こう
彼の視線が顎と共に、くいっと動く。
それにつられるようにして顔を上げれば、教室の入り口には確かに美波さんの姿があった。
休み時間――いや、もう昼休みだったようだ。どうりで周りは騒がしいし、廊下も人通りが多いわけである。
ちょっと前までは僕を見るなり大声で呼んできたくせに、今日の彼女は随分と大人しい。気遣わしげに震えている瞳が弱くて、とことん癪に障った。
だから嫌だったんだ。誰にも知られたくなかったんだ。心配そうな顔をすることが正解だとでも思っているのか。本人が欲していない同情を押し付けるのが善だと本当に思っているのか。
そうやって無意識に人を見下して満足か?
「どうしたの? 美波さん」
仕方なく僕の方から歩み寄ってやると、彼女の肩が小さく跳ねる。こちらに向けられた視線からは相変わらず心配の色が宿っていたものの、どこか怯えているような空気が含まれていた。
何でそんな顔をするんだ。僕がせっかく愛想良く話しかけてやっているのに。
「あの……」
美波さんが唇を軽く噛んだ。胸元で握り締められている彼女の拳に、一層力がこもる。
「航先輩。今日の放課後は、時間ありますか?」