虹色のキャンバスに白い虹を描こう


心配? 同情? 笑わせる。
馬鹿にされるのも侮辱されるのも御免だが、偽善の皮を被って丁寧にいたぶってくる奴が一番嫌いだ。勝手に自分の尺度で物事を決めて、それが正しいと疑わない。

そういう人間に限って、自分が他者を傷つけているという自覚がないのだ。笑顔で、いっそ穏やかに手を下す。自覚がないからこそ、良かれと思って何度も、何度も。

自分より「劣っている者」を救うことに意義を見出す。正義だと謳う。
そしていつしか、弱者を「自分をよく見せるためのツール」として利用するようになる。


「……帰れよ」


未だにこちらを凝視したまま固まる彼女に、短く言い捨てた。


「え、」

「いつまでそこにいんだよ。早く帰れ」


煩わしい。邪魔だ。気分が悪い。
狭い胸中で黒々とした感情が渦を巻く。その勢いのまま彼女を睨みつければ、相手は目をこれでもかと見開いた。


「航先輩……」

「帰れっつってんだろ!」


駄目押しで吐き捨てると、ようやく彼女が一歩あとずさる。


「……ごめんなさい」


それが合図だったかのように、踵を返して小さい背中が去っていく。

静寂が広がっていた。遠巻きからこちらを窺ってこそこそと小声で話す人がいれば、関わりたくないと言いたげに分かりやすく視線を逸らしている人もいる。

……もう、なんとでも思えばいい。

自分が守り築いてきたものは、いとも簡単に壊れてしまったのだから。

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