虹色のキャンバスに白い虹を描こう
お兄ちゃん。そう呼ばれた彼は、美波さんに服の裾を引っ張られたまま眉間に皺を寄せた。
「違うの! 航先輩が言ったのは、そういう意味じゃなくて……」
「じゃあどういう意味だよ」
「とにかく!」
兄の剣幕に負けないくらいの声量で、彼女が場を制す。
「その手、離してよ。話は中で! ね!」
不服そうではあったものの、妹に叱られた兄は投げやりに僕から手を離した。
美波さんが恐る恐るといった様子でこちらを見上げ、「航先輩」と唇を動かす。
「うちの兄がすみません……あの、改めて、来てくれてありがとうございます」
「いや……僕は別に、」
このまま帰るつもりだったんだけど、と続けようとした時、横から鋭い視線が突き刺さる。美波さんの兄――否、ボディーガードともいうべき存在が、僕を逃がさまいと決意に燃えていた。
彼の腕が、今度はずしりと肩に回される。
「清が世話になってるみたいだな。ゆっくり話でもしようじゃねーか」
……ああ、本当に面倒なことになった。