虹色のキャンバスに白い虹を描こう
食事と一緒だ。腹が減ったから食べる。必要性があれば描く。腹が減ってもいないのに、描こうとは思わない。
無感動に筆を取ったところで、描き上がるのは無機質なものだ。それなら写真の方が正確だし、鮮明で綺麗に決まっている。僕がわざわざ描く必要はない。
「まあ、別に無理強いするつもりはねえよ。俺らだって“楽しく”やりたいだけだからな」
お前、生意気だし。
そんな呟きが彼から聞こえた気がしたけれど、言及するのも面倒なのでやめておいた。
「ああ……こんな話してる場合じゃなかったな。俺が聞きたかったのはさっきの件だ」
投げやりな口調から一変、顔の筋肉を引き締めるようにして、彼は途端に真面目腐った表情をつくる。妹と同じ長い睫毛が伏せられ、頬に翳りを落とした。
「清はお前のこと庇ってたけど、兄としては言葉の真意ってやつを確かめないわけにはいかない。それによっては、お前のこと本気で殴る」
「……そんなに警察沙汰にしたいなら、止めないけど」
「ばぁ――――か。そういう問題じゃねえよ。てか敬語使えって言ってんだろ、ほんっと可愛くないわお前」
「同じ学校でもないんだからいいだろ」
「年上はフツー敬うもんだっつの!」