虹色のキャンバスに白い虹を描こう


一喝した彼が、仕切り直しとでも言いたげに咳払いをする。束の間の脱線は終了したようだ。


「男性は5%、女性は0.2%」

「……は?」

「日本で色覚異常を持っている人の割合だ。正確にいうと、先天性の、だけどな」


心臓が嫌な音を立てて鳴り始める。唐突に切り出された話題は、偶然にしては出来過ぎだった。
かといって、彼に自分の事情を知られているわけがない。ついさっき、初めて会ったのだから。


「俺は色覚異常って(この)言い方、あんまり好きじゃないんだよ。最近は色覚多様性っていう呼び方もあるらしい。……まあ、」


彼の視線が刺さる。


「――お前にとっては、呼び方が変わろうと『障害者』に変わりはないか?」


頭を思い切り揺さぶられたような衝撃だった。否、彼の言葉を借りるなら、既に自分は殴られていた。
思考がまとまらない。

睨まれているわけでもなく、蔑まれているのとも違う。ただ純粋に問われているだけだ。まるで、答えのない道徳の問題を突きつけられているかのように。


「ただな、色の見え方が他の奴と違うっていうのは、案外珍しくねーよ。5%も、言い換えれば二十人に一人ってことだ。クラスに一人か二人はいるって計算になる」

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