虹色のキャンバスに白い虹を描こう
でも、僕だって彼女を知らなかった。彼女が同じ人間であったなんて、一体誰が思うだろう。
いちごのパンケーキ、公園の木々、店先のスカート。
彼女にはどれも鮮やかに見えているものだと信じて疑っていなかった。さぞ綺麗な世界の中で、愉快に生きているのだろうと決め込んでいた。
彼女は自分のそれを、「障害」と言った。
「会話の中で出てきただけだ。僕に宛てたわけじゃない」
もはや何に苛立っていたのかも、上手く説明できそうになかった。燃え上がった炎を無理やり鎮火させられたような消化不良感は否めないにしろ、怒りの感情は明らかに不適切だと言う他ない。
そうか、とまた彼が頷いた。
「……生まれた時からなんだ。清は二色覚で、赤や緑を識別できない」
「二色覚?」
「ああ。まあ分かりやすく言えば、赤色盲だな」
思わずオウム返しをした僕に、彼はあっさりと肯定する。
赤、緑、青。光の三原色によって、この世界は織りなされている。
人間の目にある網膜には、それぞれこの三色に対応する錐体という細胞があるのだ。しかし、何らかの理由で錐体に異常が起こると、色の弁別が難しくなることがある。
それが色覚異常と呼ばれるものだ。
「色盲……」