虹色のキャンバスに白い虹を描こう


あのとき掴まれた胸倉に視線を落とせば、それがもはや随分と前のことのように感じられた。

ありがとうございます、と唐突に礼を述べた彼女に、意図せず眉をひそめる。


「さっきは助かりました。私、赤が分からないので」


ごく自然と付け加えられた理由に、一瞬言葉を失う。
彼女の中の当たり前に、今ようやくきちんと触れたのだと思った。言葉として告げられ理解していたつもりでも、まだ消化しきれていないのだろう。


「色盲って聞いたけど」

「はい、遺伝的なものです。ユイちゃんも同じで……普段は明るくていい子なんですよ。だから色々おしゃべりしてみたんですけど、私の言葉じゃいまいち元気でなかったみたいですね」


恐らく八つ当たりにも似たものだったのではないだろうか。美波さんの言葉があの子に届いていないとは思えなかったし、唯一の共感者として弱音を吐きたかったのかもしれない。


「航先輩のさっきの言葉、私まで元気もらっちゃいました。私、薄っぺらいことしか言えなかったなあって……」


乾いた笑みを浮かべ、彼女が語尾を弱める。
今日はずっと、そんな顔を見てばかりだ。


「薄っぺらくても、それを欲してる人はいるんじゃない」

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