虹色のキャンバスに白い虹を描こう


どうしてこうも彼女に振り回されているのだろう。言動の制御が効かないのだろう。
ハンドルを握っているのは僕のはずだ。いつだって、誰にだって、自分が優位になるように努力してきたはずだ。

見え透いた嘘も、本音も、読み解くのは得意だった。下心や虚栄心を隠しながら笑顔で近付いてくる奴らに、僕の内側までを侵食させるわけには絶対にいかない。隙間を埋め、鍵をかけ、僕は僕を守り続けた。

それなのに、いま目の前にいる彼女はどうだ。
自分の欲を隠そうともしない。真正面からガラスを素手で割りに来る。そのせいで怪我を負ったら、きっと図々しく僕に手当を頼むんだろう。

何なんだよ、本当に。何なんだ。


「あんた、じゃないですよ。私は、美波清です」


呑気な訂正を入れ、彼女が声を明るくする。それから僅かな沈黙を経て、美波さんは再び口を開いた。


「航先輩の絵を初めて見た時、見えないはずの色が見えたんです。原因とか理由は未だに分からないんですけど……」


澄んだ瞳が、真っ直ぐに空を見上げる。


「不思議でした。感動した。この世界にはこんなに沢山の色があるんだって。もう目が離せなくて、それからずっと、この絵を描いた人に会ってみたいって、それだけでした」

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