虹色のキャンバスに白い虹を描こう
そう語る彼女の横顔から目が離せなくなっていたのは、僕も同じだった。
僕のことを――否、僕の絵のことを話す時、彼女はいつも別人のような顔をする。それは故人の冥福を祈るかのような穏やかさでもあるし、恋人を待ち侘びているかのような愛しさと切なさでもあるのだ。
「絵を見て泣くなんて、あの時が生まれて初めてです。世界はまだこんなに瑞々しいって、教えてくれたのは航先輩ですよ」
忘れたんですか、とでも言いたげな口調だった。空からゆっくりと視線をこちらに移した彼女の目は潤んでいて、周りの空気も風も何もかも、清らかに流れている。
彼女の目からも今、涙が流れている。
「私は、航先輩の絵を見たいです。どうしても、もう一度見たいんです」
これほどまでに鮮烈で純粋な願望を、僕は他に知らなかった。
きっと、嬉し涙でも悲し涙でもない。湧き上がった自然水のごとく、さも当然のように、彼女の涙は流れる。流れ続ける。
「……僕の絵は、くすんでるよ」
そもそも見える世界がくすんでいるのだから、そこから生まれる世界だってくすんでいるに決まっている。
「いいんです。航先輩の世界を、私に教えて下さい」
泣きながら彼女が頬を緩める。その乞いは、相変わらず有無を言わせぬものだった。
僕のくすんだ世界に、その日から明確に彼女が加わった。