虹色のキャンバスに白い虹を描こう
こんな色覚ジョークを言い合っているのなんて、電車内に僕と彼女以外いないだろう。お互いの事情を知り、変に気を遣う必要性がなくなった。
美波さんの前で気を張ることがなくなったのと同時に、学校にいて疲れることも減った。彼女に怒鳴った一件から、周りの目も変わり、「いい人」であり続けることは既に不可能になっていたからだ。
それなのに、ショータは相も変わらず僕に話しかけてくる。彼は自らノートを差し出し、こう言ったのだ。
『先生から聞いたんだけど、お前黒板見えにくいんだろ? 俺、字汚いし寝てばっかだけど、これからはなるべくちゃんとノート取るからさ。分かんないとこあったら聞いて』
今日の帰りに担任に引き留められ、ショータに僕の事情を説明したと聞かされた。田中さんにも話したと。
クラスメートには言わないで欲しいと、最初に頼んでいたはずだ。誰にも知られたくなかった。
『授業に支障が出るなら話は別だ。申し訳ないが、席の近い二人には最低限理解してもらう必要があると思って、犬飼のことを話した。世界史の先生にも、見やすい板書をつくってもらうように頼んだから。今まで気付かなくて、悪かった』