虹色のキャンバスに白い虹を描こう
そう言って頭を下げた担任に、僕はなんて返せばいいのか見当もつかなかった。
なぜ彼が謝るのだろう。なぜ僕は謝られているのだろう。
ショータも、田中さんも、どうして僕を馬鹿にしないのだろう。どうして人のために――僕のために動くのだろう。
だって、僕はもう「いい人」じゃない。何もせずとも人が寄ってきて、周りから好意や親切を受け取れるような、そんな人間の殻はとっくに投げ捨ててしまった。
ただ汚れているだけの僕に、どうして――。
「航先輩、具合悪いんですか?」
返事をまともにしなかったり黙り込んだりするのは、彼女に対する態度として今に始まったことではない。
しかし美波さんはわざわざ僕の顔を覗き込むと、そう問うてきた。
「別に……普通だけど」
「そうですか? ずっと怖い顔してますよ」
目的の駅に着き、二人で降り立つ。
改札を抜けてから、僕はふと彼女に質問を投げた。
「心当たりがないのに人から優しくされると、不安にならない?」
突然の話題提供に驚いたのか、美波さんは目を瞬かせる。
「どうしたんですか、いきなり」
「どう思う?」
「えー……そうですねえ。不安、はないです。嬉しいって思うのが先なので……」