虹色のキャンバスに白い虹を描こう
顎に人差し指を当て、斜め上を見つめながら彼女が答えた。
あまり納得のいく回答は得られなかったので、更に質問を重ねることにする。
「親切にされる理由もないのに?」
「理由? 理由なんていちいち考えます?」
「メリットがあるから行動を起こすんだよ」
「うーん……」
首を捻った美波さんが、じゃあ、と声色を変えた。
「荷物をたくさん持ったおばあちゃんが歩いていたとして、それを手伝う人って、見返りを求めてるんですかね?」
彼女の瞳が僕を刺す。真剣な表情はすぐに崩れて、その口元に柔らかい笑みが現れた。
「多分、求めてないですよ。目の前に困った人がいたから助けたんです」
不安ですか?
美波さんは念を押すように、僕にそう尋ねる。
「でもそれはきっと、航先輩が素敵な人だから、優しくしたいって周りの人が思ったんですよ。私だってそうです」
「……素敵って」
よくそんなことを面と向かって言えたものだ。聞いているこっちが恥ずかしくなる。
「この世界は、航先輩が思っているよりもずっと、あなたに優しいですよ」
風が吹くのと同時、彼女は照れ臭そうに背中を向けて歩き始める。
この世界は、僕が思っているよりもずっと、僕に優しい。
もし本当にそうだとしたら、色と色の狭間をもう少し、ゆっくりと眺めていられるだろうか。