虹色のキャンバスに白い虹を描こう


彼女の発言に、息が詰まる。

どういうことだ。彼女の母親もまた色覚異常だったということか?
いや、僕の母は至って正常な色覚の持ち主であるはずだ。じゃあ彼女が言っているのは、一体。


「保因者って、聞いたことありますか。原因となる遺伝子を持っていながら、発症していない人のことです。私の母はそれだったんです」


日本人女性の十人に一人はいるという。
そして保因者の女性と、色覚異常の男性。両者の間にできた子供は、50%の確率で色覚異常となる。


「母が保因者でないと、私がこうなるはずはなかった。……だから、父だけを恨むことはできません。私は、誰のことも嫌いになりたくありません」


航先輩、と。彼女が僕の名前を口にする。


「あなたの目は、あなたのものです。親の遺伝子を引き継いでいるのはもちろんですけど……でも、この心臓が私だけを動かしているように、この目だって、私のためだけにありますから」


僕のためだけにある目。彼女の言うことが本当なら、僕の目は心臓かもしれない。
今この瞬間も、僕を生かすために瞬きを繰り返している。何度瞬きをしたって景色は変わらないけれど、空だけは依然として青いままだ。

この場で僕と彼女が唯一、きっと同じように見えているもの。


「空が、青いですね」

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